2017年8月6日日曜日

杉浦醫院四方山話―512『殺貝剤開発と田の草取り』-3

 田植えが終わり一息つくと田の草取りが稲刈りまで続きますが、草の成長は真夏がピークになりますから、炎天下の草取りも避けてはとおれません。

この時代に最も普及していた除草剤は、「2・4‐D」というホルモン系の選択的除草剤でした。

 

 これは、水稲には無害で雑草のみを選択的に枯らすという除草剤でしたが、真夏に伸びるノビエ、浮き草、アオミドロには全く効きませんでした。さらに2・4‐Dは、寒冷地では水稲に薬害が生ずることから新しい除草剤の出現が望まれていました。

 

 2・4‐Dの後、新除草剤として「MCP」が出現しました。これは、2・4‐Dの弱点を克服する改良的な除草剤で、高温多湿でなければ効力がなかった2・4‐Dでしたが、低温で日照が少ない年や場所でもMCPは効きました。何よりも散布の分量が多少多すぎても薬害が出ないことなどの改良はされましたが、真夏のノビエ、浮き草、アオミドロに対しては2・4‐D同様で、画期的な除草剤とは言えませんでした。

 

 元来熱帯性の水稲は30°C~32°Cの地温が必要なのに浮き草、アオミドロが繁茂すると根には日光が照射されなくなり、水温を低下させますから、稲作には冷害と同じ凶作をもたらします。炎天下でも田に入り田の草取りを余儀なくされる理由がそこにありました。

 

その辺について由井技師は次のように述べています。

「山梨県の標高850m付近の水田地帯では、農林17号、陸羽132号の品種を栽培しているが、7月中旬には、毎年浮き草の発生が多過ぎて、竹製の網で手掬いして防除している現状さえ認められる。浮遊中の浮き草を完全に掬い取ることが、如何に困難であるかは、その情景が目の当たりに浮かんでくる。かかる地帯の稲作にとっては、1°Cとは言わず、たとえ、0,5°Cでも高ければ高いだけ、生育量が上がる地帯だけに、浮き草防除こそ、水温上昇の良い方法と云えよう。」

 

 ですから、更なる改良で、真夏のノビエ、浮き草、アオミドロに効力のある除草剤の出現は、稲作が柱であった農民から切望され、山梨農事試験場でも石灰を使った浮き草防除試験が行われるなど全国的に「真夏の田の草取り」から農民を解放し、同時に生育量の増産を図る取り組みが始まりました。