2013年10月8日火曜日

 杉浦醫院四方山話―279 『内田樹甲府講演会1』

 過日、甲府市総合市民会館でJC甲府(甲府青年会議所)主催で、内田樹氏の講演会が開催されました。現代日本の第一級オピニオンリーダーとして活躍の内田氏は、以前にも紹介した「日本辺境論」はじめ多数の著書や対談集がありますが、2002年に「講演お断り宣言」を出していましたから、その内田氏が神戸から講演に来るというので、聴きに行ってきました。

 冒頭、今回の講演依頼も再三断ったそうですが、JCのメンバー3人が神戸の道場まで来ての懇願に断りきれず応じたとのことでした。そういう意味では、甲府青年会議所には感謝しなければ申し訳ありませんが、講演に先立って行われたJCの研修報告が、内田氏が最も否定してきたパターン化された研修内容で、内田氏も「なぜ僕が呼ばれたのか分からくなってきた」と苦笑してのスタートでした。



前表紙
 演題は「街場のリーダー論」でしたが、上記のような状況から内田氏は臨機応変に神戸女学院大学での30数年の教員生活と合気道師範の武道家として行き着いた「教育」の話で始まりました。
 詳細は著書「街場の教育論」や「街場の大学論」に譲るとして、死後となって久しい「大器晩成」が教育の本質だと語り、2年とか4年と云った短いスパンで結果を出す、出させる教育なんてあり得ない。ましてや、数か月に何回か行った座禅研修で「集中力」を高めたと云うJCの研修会も・・・と、苦言を呈しました。

 「教育は、色々な教師が、多様な価値観で、様々な方法でかかわる中でブレークし、当人が学びの必要性を自覚し、学ぶ意欲を呼び覚ましたとき開花するものなので、少なくとも10年から50年と云った長いスパンで待たなければならないと云うことだけが分かった」と語りました。

 学校では「教育技術法則化」運動などに若い教師が飛びついたり、社会でも「自衛隊体験入隊」研修がもてはやされましたが、マニュアル化した教材や方法論で、生身の人間がコロッと変わるほど単純ではないということを先ず認識することが必要だということでしょう。「よい教師が正しい教育方法で教育すれば、子どもたちはどんどん成長するといった公式的な教育論は、人間理解が浅すぎる」という内田氏の自論は、もっと浸透して然るべきと私は思っていますが・・・・

 最終的には、自学自習する人間になることが飛躍的な伸びの源泉ですから、教育の現場では現在の生徒・学生がどうであれ、教えることや知ることが後の学びに役たち繋がることを教師はしっかり自覚して、自信を持って教壇に立ちつくす姿勢が、やる気のない生徒・学生にも葛藤を生じさせ、気づきにもつながるのだと質問者の高校教師に諭しました。
おっしゃる通り内田氏の壇上での語りと姿勢は、「夜9時を回っているから飲んで帰ろうか?いや帰って今日の話をメモってから飲もうか?」と不肖な受講者にも葛藤を生じさせ、結果、メモってから飲もうと喚起してくれました。