2013年1月23日水曜日

杉浦醫院四方山話―214 『杉浦医院照明器具-2』


 部屋の大きさに合わせた大小二つのアール・ヌーボー風の曲線で統一されたペンダント形ライトが、「古色蒼然(こしょくそうぜん)」と云った四文字熟語がぴったりの杉浦医院診察室に一層の趣を添えています。
 ご覧のように意匠も色も至ってシンプルで、花の様式と謳われたアール・ヌーボーランプのような多彩な色を駆使していないのは、医院診察室の照明だからでしょう。
 つる草のようなうねる曲線を多用して組み合わせるのがアール・ヌーボーのガラス工芸品の特徴ですから、左下の写真のように上部の円周をを菊の葉の模様で廻らし、真下から見ると菊の花模様のデザインは、アール・ヌーボーの花の様式そのものです。

 当ブログ49話「エミール・ガレ」でも紹介しましたが、アール・ヌーボーは、20世紀初頭前後、ヨーロッパやアメリカでおこった革新的な芸術運動で、「産業革命以降、粗悪になった実用品に芸術性を取り戻そう」という趣旨のものですから、芸術性が求められる様々な実用品に波及しました。結果、花瓶や照明器具にもゴシック美術や、日本の浮世絵の影響も色濃い作品が多数作られ、その代表的なガラス作家エミール・ガレが人気を博し、ガレの水差しも購入している杉浦家ですから、診察室の照明にアール・ヌーボーを選択した美意識も共通しているのでしょう。
重量もあるこの照明器具は、鉄の鎖で吊るされ、天井にはご覧のように頑強なステイが組込まれ、全体を支えています。相似形の二つのランプの明かりは、決して明るい訳ではありませんが、大変落ち着く形容しがたい優雅な光です。