2012年10月18日木曜日

杉浦醫院四方山話―188 『中村不折の軸』

 9月末に掛け替えられた母屋座敷のお軸は、将軍綱宗公御染筆の書画であることを『10月のお軸または遊興放蕩三昧』でお伝えしましたが、所用で母屋に行くと、軸が掛け替えてありました。初めて観る軸なので、カメラを持って再度お邪魔しました。
 見慣れた「不折」の文字が飛び込んできたので「中村不折の南画ですね。不折もあったんですか」と尋ねると「不折をご存知でしたか。祖父が買ったものだと思いますが、私にはよく分かりませんが・・・」と純子さん。中村不折については、当四方山話―61『二葉屋酒造・奥野肇』 でも触れましたが、市川大門にも滞在していましたから、健造先生と交流があった可能性も考えられます。何せ二人とも「慶応2年」の生まれでもありますから。
中村不折は、パリで学んだ洋画家ですが、中国文化にも造詣が深く書も多く残したことで知られています。 
 現在でも「月餅」の新宿中村屋のロゴマークは、不折書の文字ロゴですから、見覚えがあることでしょう。
信州諏訪の宮坂醸造の清酒「真澄」も不折書です。
「栴檀」同様主張しない味わい深い書体は飽きない名筆で、書家としての作品が著名ですが、画家としても夏目漱石の「吾輩は猫である」の挿絵は、不折の代表作品にもなっています。
 東京台東区にある区立書道博物館は、不折がその半生をかけて独力で蒐集した、中国および日本の書道コレクションを展示する専門博物館で、開館以来60年にわたって中村家により維持・保存されてきましたが、平成7年(1995)12月に台東区に寄贈され、本館と新たに建設された中村不折記念館で構成されています。ここでは、多くの不折の作品を鑑賞することが出来ますが、「書」と「洋画」が中心です。また、山梨県立美術館で、以前開催された玄遠書道会作品展でも県内にある不折の作品を一堂に集めた特別展を企画した折、見学しましたが、書作品だけでしたから、杉浦家の「南画」は非常に貴重な作品だと思います。その上、大変丁寧に細かく描きこまれた作品が、きれいに保存されていますから、書道博物館でも欲しい名品だと思いますが、これも健造先生の趣味の良さ、高さを物語る杉浦コレクションとして母屋に掛けられるのが一番なのでしょう。