2012年10月12日金曜日

杉浦醫院四方山話―185 『東郷平八郎の書』

 三郎先生が懇意にしていたアピオの秋山社長(当時)からの要請で、杉浦家所蔵の朱呂竹や屏風などがアピオのオープンを飾りました。アピオの経営母体が代わったことから、この度、何点かの貸与品が純子さんのもとに20数年ぶりに戻ってきました。純子さんは「私はもうよく見えませんから、病院でお使い下さい」と、預かった額は、ご覧の東郷平八郎の書「心水の如し」です。純子さんは「父は、よくウチにあるものは偽物ばっかりだと言っていましたから、これも本当に東郷平八郎のものか?偽物でしょう」とおおらかな謙遜は、文字通り心水の如しです。
 東郷平八郎の書は、書家や収集家の間では高い評価と値段が付いていることでも有名ですが、「忠勇」とか「義烈」といった、元帥海軍大将にふさわしい文字の書が多い中、「心如水」と云った心境を記した書は貴重でしょう。この書は健造先生が求めたものだそうですが、医者の求めに応じて選ばれた「言葉」かも知れません。
 ネット上に、「明治40年5月、当時の皇太子殿下(のちの大正天皇)の山陰行啓のお供をされた東郷平八郎が、殿下のご宿舎となった建物を「仁風閣」と命名して書かれた直筆の書」が、ありました。鳥取市の「仁風閣」の額です。
ド素人の私でも書体や文字配置、東郷書サインと落款印代りのマーク?は同一で、「偽物」どころか、「仁風閣」より気合と心が感じられる「書」だと「鑑定」出来るのですが・・・これも然るべき鑑定を受けると、数百万の値が付く、杉浦コレクションの一つでしょう。純子さんから預かって、医院応接室に置いたところに書家でもある若尾敏夫先生が来館され、この額に目が留りました。「この字は凄い。特に水の字の勢いとバランスは見事だねー」と驚嘆され、「アピオにあった東郷平八郎の書だそうです」と伝えると「一家を成した人の書は迫力が違うから」と若尾先生も控え目ですが、今年の昭和町文化祭に出品されていた若尾先生の作品も「一家を成した人の書」だと私は感服しましたが・・・早速、直射日光が当たらない医院2階の座敷に掛けましたので、ご鑑賞下さい。