2012年9月6日木曜日

杉浦醫院四方山話―174 『新渡戸稲造の書』

 残暑が厳しい今年の夏、純子さんから「涼しくしようと秋のお軸に掛け替えます」と声がかかりました。用意されていた秋の軸は初めて観るお軸なので「去年の9月のお軸とは違いますね」と聞くと「あら、そうでしたか。去年、何を出したのかすっかり忘れてしまいました。本当に頭もおかしくなってきていますね」と謙遜するので「数えきれないお軸ですから、覚えきれませんよ」
と云うと「ガラクタばっかり貯め込んでお恥ずかしいですが、昔アピオにお貨ししたモノが返ってくるそうで、そちらは少しはマシでしょうから、また見てください」と、アピオには棕呂竹(しゅろちく)と金屏風が行っていることは聞いていましたが、軸も貸していたことを知りました。
 今年の9月のお軸は、写真の「書」です。最後に「稲造」とありますから、新渡戸稲造の書で、純子さんは「これは、祖父健造が新渡戸先生に書いてもらったものだと聞いています。父もこの字が好きで、秋には毎年出していました」「確か、クリスチャンで東京女子大の初代学長でしたか?北大にもいましたね」と純子さんの正確な記憶はスラスラ蘇ります。
5000円札の人で話題になった新渡戸稲造は、武士道とキリスト教徒に共通点を見出し、名著「武士道」を英語で書いた教育者です。「武士道」は、日本の侍の生き様と考え方を世界に発信し多くの国の言語に翻訳され、特に欧米ではベストセラーになったそうです。 この「武士道」で世界各国に認識された「サムライ」「武士」の姿と日本人の魂や道徳観は、現在も「サムライジャパン」「サムライブルー」と云った日本チームの代名詞となって使われていますから、5000円札に肖像が残るのも分かります。
 クラーク博士の札幌農学校(北海道大学の前身)で学んだ影響で、教育者となった新渡戸は、書家ではありませんが多くの書作品を残しています。幼稚園から大学まである新渡戸文化学園資料室には、その作品が展示してありますが、札幌農学校から進んだ東大の研究レベルの低さに失望し、「太平洋の架け橋」になりたいとアメリカに私費留学したと云う新渡戸は、書も形式にとらわれず、ご覧のような英語の教育的な書も残しています。
Haste not, Rest not.
I.Nitobe
急ぐな、休むな。
または
焦るな、怠けるな。