2012年8月16日木曜日

杉浦醫院四方山話―168 『顕微鏡』

 前話で、生物学には「顕微鏡」が要であると書きましたが、この顕微鏡の世界も日進月歩で大変奥が深く、顕微鏡マニアも多いそうです。前話で紹介した「天皇はなぜ生物学を研究するのか」の著者丁宗鉄氏も顕微鏡マニアを自認する医者ですが、顕微鏡を追いかけていく過程で、皇室所有の高機能顕微鏡の台数を知り、天皇と生物学の関係に興味も拡がったそうです。

 杉浦醫院診察室の机上にも健造先生、三郎先生が研究に使った顕微鏡が残っています。右の写真のように古色蒼然とした顕微鏡ですが「KRAUSS BAUSCH&LOMB」と彫られたプレートが付いていますから、顕微鏡マニアの間では現在も取引されているクラウスボッシュロムのレトロ顕微鏡です。          KRAUSS(クラウス)社はフランスの光学機器メーカーで、BAUSCH&LOMB(ボシュロム)社は、双眼鏡やコンタクトレンズで有名なアメリカの光学機器メーカーです。
 プレートには41871と番号も入り、更に「PARIS  ROCHESTER. N.Y.U.S.A  TOKYO」と刻印されています。パリにあったクラウス社とニューヨーク州ロチェスターにあったボッシュロム社が共同で開発製造したものなのか?クラウス-ボシュロムという会社があったのか?マニアの間でも特定できていないようです。なぜかTOKYOもあることから、東京の商社が両社とライセンス契約して日本のメーカーに造らせた可能性もありますが、確かな事は分かりません。

 分子生物学者の福岡伸一氏は、小学生のとき買ってもらった100倍程度のおもちゃの顕微鏡で覗いた蝶の卵や葉脈から顕微鏡オタクになり、現在に至っていると書いていますから、人間の好奇心や探究心の原点は、「ノゾキ」にあるようです。顕微鏡も覗いて初めて拡がる世界ですが、ニーチェの名言「おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。」を肝に銘じてノゾかないと火傷で済まないことも多いので、矢張りノゾキは要注意ですね。