2012年2月5日日曜日

杉浦醫院四方山話―113 『杉浦家2月のお軸』

    「これは、茶掛けですので、八百竹さんからのものです。亡くなられた八百竹さんのご主人は、お軸にも造詣が深い方でしたが、とても面白い方でした。うちのような田舎家では、こんな立派お値段のモノはとてもとても・・とお断りすると、それは残念ですねぇ、でもちょっと裏の木の小枝をゆすって来てみて下さい。きっと大丈夫ですから、とかおっしゃって、その気にさせるんですよ」と純子さん。時代は、江戸かと思う小粋な会話ですが、その今は亡きご主人・小林敏宏氏は、山梨県の文化財審議委員も務めた博学な目利きで著名ですが、浅川伯教・巧関係の収集家として多くの白磁碗や書画を八百竹美術品店は現在も収蔵しています。私と同級生の弟の真氏も40歳前に急逝しましたが、学生時代からの博物館通いで「本物」を観る眼を養って、東京美術倶楽部で買い付けが出来る数少ない若き古美術鑑定士でした。この小林兄弟と八百竹美術品店については、鎌倉で「えびな書店」という古書店を開いている蛯名則著「えびな書店店主の記」という本や里文出版刊「浅川伯教の眼+浅川巧の心」などでも紹介されていますが、二冊とも小林真氏の奥様からご寄贈いただきましたので、当館でも読むことができます。
 
   表題「江天暮雪」は、瀟湘八景(しょうしょうはっけい)に選ばれた景勝地の一つで、特に雪景が良いと謳ったものですから、杉浦家が2月のお軸としてきたのも頷けます。
書は、華道青山流の家元で江戸時代の権大納言・園基勝の真筆です。
純子さんが欲しくなるのも分かるような柄、色調で統一された八百竹美術店表装の2月のお軸ですが、表題「江天暮雪」で、正月に読んだ内田樹著「日本辺境論」に繋がりました。
内田氏は、丸山真男の日本人論を紹介しながら「絶えず外を向いて、きょろきょろしている日本人」と「きょろきょろして持ってきた外来文化や思想」について論じています。
 金沢八景や近江八景、江戸八景など地域における八つの優れた風景を選んで観光名所とする「八景」選定方法も日本中に○○八景が400か所もあることから、日本独自の様式かと思いますが、10 世紀の中国北宋の時代、湖南省で選ばれた瀟湘八景(しょうしょうはっけい)がモデルで、きょろきょろして持ってきた外来様式を全国に広めて、元祖のように知らんふりを決め込む「辺境日本人」の得意技で、数多い「きょろきょろ」成果を具体的に挙げていた「日本辺境論」にも無かった「小さな発見」を「江天暮雪」で、楽しませていただきました。