2011年5月24日火曜日

杉浦醫院四方山話―47 『大山蓮華(おおやまれんげ)』

 純子さんからは「父は、煙草が唯一の楽しみだったようです」と聞きましたが、医院裏に観葉植物の為の温室を三郎先生が建てたそうですから、植物にもかなりの造詣と趣味を持っていたのでしょう。そういう環境で育った純子さんのもとには、季節ごとの「花」の贈り物が絶えません。東京や神奈川からは、花屋さんを通してですが、ご近所や県内の方からは、庭に咲いた花が直接届きます。先日は、西条のMさんから、「いつもならゴールデンウイークには咲き出すのに今年はだいぶ遅い感じ・・」と路地咲きのバラが香りと共に届きました。「じゃあ、ホタルも例年より遅いかな」と思いましたが、花や昆虫など自然の営みは、人間のあいまいな感覚や思い込みより正確に気温や湿度を計測しているようで、「4月の少雨で、今年の筍は県内どこでも不作です」のとおり、杉浦醫院の筍も例年ほどふっくら太りませんでした。
 2日後には、西条新田のNさんが、「庭の大山蓮華が3輪咲いたので、純子さんに渡してください」と写真のようなしっかりした蕾の一輪を届けてくださいました。「大山蓮華は、神奈川の大山に咲く花ですか?」と素朴な質問を発すると「低地では、根付かない山の花ですが、庭師が植えてくれたせいか、毎年数輪、庭で咲くようになったので、純子さんが喜んでくれますから」と出勤途中の忙しい中でのプレゼントでした。純子さんも「あっ、大山蓮華。千秋さんから?」と喜び、すぐ花器選びに入りました。この「大山蓮華」、私は観るのも聞くのも初めてで、「気品とはこういうものか」と真っ白な蕾に見入ってしまいましたが、別名「森の貴婦人」と云われ、美人薄命を地でいくような短い命で、深山に静かに佇むそうですから、日本人の感性に合うのでしょう、自生地での盗掘と鹿の食害で自生もめっきり減少しているそうです。本格的な茶席には欠かせぬ大変貴重な花で、濃茶席には「大山蓮華」、薄茶席には「夏蝋梅(なつろうばい)」と云われ、信楽焼きの男性的な花器によく合い、五月の茶花として幽玄を醸すよう露を打って床に置くのが流儀だそうです。
 昨日は、河口湖にお住まいのTさんが、幻の花「敦盛草(アツモリソウ)」を持参下さいました。野生ランの中では、大きな花を咲かせることから「野生ランの王者」ともいわれ、寒冷地の植物なので甲府盆地では栽培が難しく、河口湖でも育てるには、技と愛情が不可欠だそうです。いただいた一輪を純子さんはしかるべき花器と位置を選び、季節の花を楽しむ生活が習慣になっていますので、持参する方も「価値が分かる純子さんに」という相乗作用で、花の贈り物が絶えないのでしょう。「その人の現実にあった現実しか持てないのが人間!」と云ったマルクスの名言が、ふっと頭をよぎった「花々」でした。